Tさんは一軒家を改造した、おしゃれなイタリアンレストランを予約してくれていました。
「嬉しい! ここ、来てみたかったんです」
「よかった。ネットで見つけたんだ。俺も来るのは初めてなんだよ」
店内を見渡すと、ママ友の集まりと思われるグループが二つ。
そしてもうちょい年上の、マダムの趣味の集いっぽいグループが一つ。
てか、女子率、高っっ!
カップル?なのは私とTさんのテーブルだけではありませんか。
平日昼間だから仕方ないとは言え…気になるのは、店内にいるの、娘こゆきの学校のママ達じゃないでしょうね??ってこと。何しろこのレストランの最寄駅は私の自宅から数キロしか離れていないのです。
こっちは知らなくても、向こうは私を知っているってこともあるし。
2年前に離婚していて堂々と相手を探せる身ではあるけれど、こゆきの学校で
「皆さ~ん! 注目! 私、ついに離婚しました!」
って周知徹底しているわけでもありませんから、私がまだ結婚していると思ってる方々にとっては格好のネタでしかありません。

「ちょっと、聞いて~!この前、〇〇ちゃん達とイタリアンのお店行ったらね」
「えっ。なになに?(興味津々)」
「なんと、いたのよ。こゆきちゃんママのゆきさんが!旦那さんじゃない男の人と一緒に!」
「えーーーっっ…!?」
「もー、かなり親密だったよぉ!こっちが恥ずかしくなっちゃうくらいに!」
「え…ヤダ…それってどんな風に…?」
「大きな声じゃ言えないけどぉ…テーブルの下で男の人がゆきさんのスカートの中に手まで入れてて…」
「キャー!!それって、不倫じゃない!!」
まずい。そんなことになったら…激しくまずい。
私はこの際どうでもいいが、こゆきが学校でいじめられる!!
「…ちゃん? サエコちゃん? きいてる?」
あ、また盛大に妄想を繰り広げてしまってました。これ、私の悪い癖です。
来てしまったものは仕方ない。
私はサエコ。プロフィール偽装で出会い活動中・年齢サバ読み女のサエコです。
いまは目の前のTさんに集中することにします。
「…きいてます!すみません。素敵なお店なんでボーっとしちゃってました💖」
「ははっ、それは良かった」
いい笑顔…。お子さん、何人くらいいるんだろう。
「Tさん、お子さん何人ですか?」
あ、口に出ちゃってました。
「2人。中1と、小4。どっちも男の子だよ」
「もしかして、PTA会長とかやってます?」
「やってない。そんな風に見える?」
サエコちゃん、面白いね。Tさんはそう言うと、運ばれてきたピザを美味しそうに頬ばりました。
「サエコちゃんってさ、プロフィールで『独身』ってなってたけど、ホントは結婚してる?」
「えっ、いいえ! 正真正銘の独身ですよ」
「そっか。でも結婚してたことはあるのかな」
Tさんは私の目を見て言いました。
「そんな感じがするからね」
彼が言う意味は、わかる気がしました。
きっと、独身のままこの歳になった私と、今の私はぜんぜん違う。雰囲気も、しゃべり方も、服装も、ヘアスタイルも。
靴も。ハイヒールとか全然履かなくなっちゃったしなぁ…。
結婚して、子供産んで、離婚して。その経験があるからこその今の私なんだなぁ。
そんなことを思いました。
(つづく)