トレンチ紳士Tさんとの出会い(3)

これまでの歩み

「Tさん、奥さんどんな人ですか?」

…とは、さすがに聞けませんでした。

こんな素敵な人が。イケメンでオシャレで、いい会社に勤めてるエリートで、きっと良いパパで。
どうしてこんな人が出会い系で相手を探しているんだろう。
いや、理由はわかっている。寂しいからだ。誰かに抱きしめてほしいんだ。

そして、きっと奥さんも寂しい思いをしているんだろうな。

せっかく夫婦になったのに、どうしてすれ違ってしまうんだろう。
夫婦って、結婚って、なんだろう…。

もしTさんと付き合ったら。

きっと楽しいと思う。優しいし、癒してくれそう。いろんなところに連れて行ってくれるだろう。

でもやがて、耐えられなくなるだろうと思いました。
私は、娘がいるものの、独身。Tさんには奥さんと、二人の息子さんがいる。
会いたいときに会えない付き合っているのに寂しい。そんな状態になることでしょう。

最初は良くても、彼に八つ当たりしたり、泣いたりするようになる自分が容易に想像できました。

ダメダメ。寂しさを既婚者で埋めてはロクなことがない!
せっかく、堂々と恋愛ができる身分なんだからね。独身を謳歌しなくちゃ

デザートまでゆっくり堪能したあと、私は言いました。

「Tさん、とっても楽しかったです。私そろそろ行かなきゃ!出ましょうか」

店を出ると秋の風は冷たく、少し肌寒く感じました。

少し前を歩いていたTさんは振り返ると、こう言いました。

「まだ少しだけ時間ある? 公園を歩いて帰ろうよ」

平日昼間の公園には人影もまばらでした。
Tさんが行くほうに歩いていくと、ますます人影がまばらになってきて…

人目につかない木陰で彼はこちらを振り向くと、言いました。

「サエコちゃん、今日楽しかった。また会ってほしい」

その真剣な目の色と表情に、母性本能をくすぐられ…
正直、ほだされそうになりました。

1秒、2秒…。気持ちを整えてから…。
私は息を吸い込むと、言いました。

ダメです!」

「え…」

「素敵だからです。だけど結婚してるからダメです。じゃあ、なんで会いに来たのって言われるかも知れないけど、会ってみたいって思っちゃったんです。…ごめんなさい」

一気に言い終わったあと、心臓はバクバクと音を立てているようでした。

Tさんは一瞬、困ったような顔をしました。そして、私の頬に手を添え…唇を近づけてきたのです。

私は思いっきり顔を横に向けて避けました。

うわ、なんて色気のない避け方なんだろう…💦

心の中で自分にツッコミを入れつつ

「それはダメです!!」

よしっ、きっぱりお断りしたぞ!

「…クックックッ…」

Tさんはこらえきれない風に笑いだしました。

「めちゃくちゃ避けられた」
「こわっ!!既婚者、こわっ!!」

二人とも笑いだしました。

「じゃあこれだけ。ね」

彼は言うと、私を抱きしめました。

あ…男の人のハグ、久しぶり…

たった数秒間の出来事でした。でも、そのぬくもりに包まれていた時間は、もう少し長く感じました。

駅までの道、私たちは無言でした。
そして、待ち合わせと同じみどりの窓口前で笑顔で別れ、そのあと、どちらからも連絡することはなかったのでした。

…ちょっと惜しいことしたかな??
(*´з`)

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